熱中症対策の義務化

【2025年6月施行】熱中症対策が罰則付きで義務化!企業が今すぐ対応すべきポイントとは?

地球温暖化の影響により、夏季の猛暑が常態化している中、職場での熱中症リスクが年々深刻化しています。厚生労働省はこの実態を踏まえ、2025年6月1日より職場での熱中症対策を罰則付きで義務化しました。
本記事では、義務化の背景から義務内容、対応すべきポイントまで詳細に解説します。

熱中症対策の義務化に至った背景とは?

熱中症対策の義務化に至った背景

2025年6月、厚生労働省は職場における熱中症対策を法的義務とする制度改正を実施しました。これは単なる行政指導強化ではなく、罰則を伴う本格的な安全衛生活動の一環です。その背景には、複合的かつ深刻な社会的変化があります。

気候変動と猛暑の常態化

気象庁によると、日本の平均気温は過去100年で約1.4℃上昇しており、2024年の日本の平均気温は、1898年の統計開始以降、最も高い値となりました。

これにより、屋外・屋内問わず職場における熱中症リスクが増大しています。特に都市部ではアスファルトの蓄熱やヒートアイランド現象も加わり、日陰でも危険な暑さが常態化しています。

参考:気象庁 | 日本の年平均気温

職場における熱中症による死傷者数の増加

厚生労働省によると、職場における熱中症での死傷者数は2021年から右肩上がりとなっており、2024年には過去最多の1,257人を記録し、そのうち31人が亡くなっています。これらの多くは「暑さに慣れていない初夏の段階」や「無理な長時間作業」によるもので、事前の教育と体調管理が不十分だったと指摘されています。

出典:職場における熱中症による死傷者数の推移

特に注意が必要な職種・業種は?

熱中症に特に注意が必要な職種・業種は?

今回の改正省令では、熱中症対策を義務づける職種・業種などは定めていません。
しかし、2024 年の熱中症による死傷者数1,257人について、業種別でみると製造業が235人、 建設業が228人の順で多くなっており、死亡者数については、31人のうち建設業が10人と最も多く、次いで、製造業が5人となっています。
その年によって、製造業と建設業の順番は入れ替わることがあるものの、いずれの年もこの2業種で死傷者数は約4割、死亡者数は約5割から6割程度を占めていることがわかります。

出典:令和4年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況 (令和5年1月13日時点速報値)

熱中症対策の義務化の対象となる作業とは?

熱中症対策の義務化の対象となる作業

厚生労働省は、熱中症対策を義務とする作業について、以下のいずれかに該当する作業環境では、熱中症対策が「義務」となります。

対象条件内容
気温条件気温31℃以上またはWBGT* 28℃以上の環境で作業
時間条件1時間以上の連続作業、または1日4時間以上の実施が見込まれる作業

*WBGTとは、暑熱環境下での熱中症の危険度を評価するための指標です。温度だけでなく、湿度・輻射熱(ふくしゃねつ)・風速などを加味して、人体への負荷を数値化します。

参考:環境省熱中症予防情報サイト 暑さ指数

企業が今すぐ対応すべきポイント

企業が今すぐ対応すべきポイント

対象となる作業環境がある企業は、以下の対応を速やかに実施する必要があります。

作業環境の温度・湿度測定

WBGT(暑さ指数)を定期的に測定し、現場のリスクを可視化することで、熱中症の兆候を事前に把握できます。市販のWBGT測定器を活用し、作業場所ごとの状況を数値で記録しましょう。

報告体制や対応手順の整備

作業員が「少し具合が悪い」と感じたときに、すぐに報告・離脱できる体制を整えることが重要です。報告の流れや担当者、応急処置・搬送手順を文書化し、現場に掲示・周知しておきましょう。

労働者への教育・周知

熱中症の症状・対処法・予防行動を従業員全体に理解させるため、定期的な教育を実施することが求められます。とくに新入社員や外国人労働者には、言語や文化に配慮した説明も有効です。

休憩所の設置や水分・塩分補給の促進

涼しい休憩スペース(冷房・日陰・ミストなど)を確保し、誰でも自由に利用できる環境を整備しましょう。加えて、スポーツドリンク・塩飴などを常備し、自発的な補給を促す声かけも大切です。

作業時間の調整やプレクーリングの実施

猛暑の時間帯(11時〜15時)を避けたスケジューリングや、作業前に体を冷やす「プレクーリング(予冷)」を実施することで、熱中症の発症リスクを大幅に下げることができます。

これらの対策を講じることで、労働者の安全と健康を守り、企業の社会的責任を果たすことが求められます。

事業者に求められる3つの義務

1.報告体制の整備

労働者が熱中症の初期症状(頭痛、めまい、吐き気など)を感じた時、また熱中症のおそれがある労働者を見つけた時、その旨を即座に報告できる体制の整備と、熱中症の初期症状がある労働者を早期に見つけられる体制が企業に義務付けられています。

2.実施手順の作成

熱中症の恐れがある労働者を把握した場合、速やかに作業から離脱させ、適切な措置を講じることが義務付けられています。

  • 冷却用具の配置
  • 医療機関との連携(最寄りのクリニックの一覧など)
  • 迅速な作業中止の判断基準明確化

 などの「実効性ある実施手順」を職場単位で定める必要があります。

3.関係者への周知

報告を受けるだけではなく、熱中症のおそれのある作業に従事する全ての関係者への周知が必要です。報告ルールを掲示・マニュアル化し、熱中症対策の周知に努めましょう。

職場の熱中症対策義務化の基本的な考え方

参考:職場の熱中症対策義務化の基本的な考え方

違反時の罰則

違反時の罰則は?

事業者が上記の義務を怠った場合、労働安全衛生法119条違反として以下の罰則が科される可能性があります。

  • 6ヶ月以下の懲役
  • または50万円以下の罰金

また、労働基準監督署から是正勧告や報告命令を受けることもあります。

まとめ

熱中症対策の義務化についてのまとめ

熱中症は、「正しく備えることで防げる災害」です。

法令遵守だけでなく、従業員とその家族の安心を守るために、企業が積極的に取り組むことが何よりも大切です。

 この夏は、熱中症ゼロの職場を目指しましょう。

記事監修

石川 靖
石川 靖
社会保険労務士として約4年半の実務経験を積み、2022年独立。2024年に法人化し代表に就任。
労務管理・人事制度構築にとどまらず、IT・AI分野に強みを持ち、最新のテクノロジーを活用した業務改善支援や、DX推進のサポートにも注力している。
社労士としての専門性とIT知見を掛け合わせた実践的なコンサルティングで、多くの企業の成長を支援している。

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