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人手不足や物価高騰、最低賃金の引き上げなど、中小企業を取り巻く環境は日々厳しくなっています。
業種を問わず、多くの経営者が「人が足りないけれど人件費は上昇し続けている」「業務を効率化したいけれど投資の余力がない」という問題を抱えています。
こうした課題を解決するために国が新たに設けたのが、「中小企業省力化投資補助金」です。
この補助金は、省力化設備への投資を支援することで、生産性向上と賃上げを両立させることを目的としています。
本記事では、この省力化投資補助金について、制度の仕組みや申請の流れ、申請時の注意点などについてわかりやすく解説していきます。
詳細や最新の情報は、事務局ホームページを確認するようにしてください。
リンク:中小企業省力化投資補助金
中小企業省力化投資補助金とは?

中小企業省力化投資補助金とは、人手不足解消に効果のあるロボットやIoTなどの製品や設備・システムを導入するための経費を国が補助することにより、中小企業の省力化投資を促進し売上拡大や生産・業務プロセスの効率化を図るとともに、賃上げにつなげることを目的とした補助金です。
本補助金の最終的な目的は、単にコストを補助するだけではなく、「省力化設備導入」→「生産性向上」→「賃上げ実現」 というサイクルを作ることにあります。
- 人手不足の解消:清掃ロボットや配膳ロボットなどで人員配置を効率化
- 付加価値の向上:自動倉庫や検品システムで品質向上、スピードアップ
- 賃上げの推進:一定以上の賃上げを実施すれば補助上限額が拡大
このように、中小企業の競争力を高めつつ、従業員の待遇改善を後押しすることが最大の狙いなのです。
また、中小企業省力化投資補助金には、「一般型」と「カタログ注文型」の2種類があります。
どちらを選ぶかで、導入できる製品や申請の難易度、補助額が大きく異なります。
以下に、それぞれの型について解説していきます。
小企業省力化投資補助金「一般型」

一般型は、中小企業などが省力化効果のあるオーダーメイド・セミオーダーメイド性のある設備やシステムなどを導入し、「労働生産性 年平均成長率4%向上」等を3~5年で目指す事業計画に取り組むものが対象です。現在第4回公募中(締切11月下旬予定)であり、第4回について解説していきます。
補助対象者
補助対象者は、中小企業者、小規模事業者、特定非営利活動法人、社会福祉法人などです。補助対象者であっても、基本要件やその他の要件を満たす必要があります。
補助額と補助率
一般型の補助上限額は以下の通りです。
従業員数 | 通常上限額 | 賃上げ特例適用時の上限額 |
---|---|---|
5人以下 | 750万円 | 1,000万円 |
6~20人 | 1,500万円 | 2,000万円 |
21~50人 | 3,000万円 | 4,000万円 |
51~100人 | 5,000万円 | 6,500万円 |
101人以上 | 8,000万円 | 1億円 |
補助率は、
- 中小企業: 補助金額 1,500万円まで は 1/2、それを超える部分は 1/3
- 小規模企業者・再生事業者: 補助金額 1,500万円まで は 2/3、それを超える部分は 1/3
となっています。
さらに、最低賃金引上げ特例を満たす事業者は、補助率を一定条件下で引き上げることができます。
主な基本要件
- 労働生産性の年平均成長率:事業実施期間中に、年平均 +4.0%以上 の成長を見込む計画を立てること。
- 賃金引上げ・給与支給総額の成長率: 「1人当たり給与支給総額の年平均成長率」が、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年の年平均成長率以上増加、または給与支給総額の年平均成長率 +2.0% 以上であること。
- 事業場内最低賃金水準:事業所の最低賃金が、実施県の最低賃金より +30円以上 の水準であること。
- 一般事業主行動計画の公表等:従業員21人以上の事業者の場合、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画の公表をしていること。
主な補助対象経費
- 機械装置・システム構築費(必須):自動化機器、ロボット、IoT機器、制御システムなど
- 技術導入費:専門技術・技術ライセンス料等
- 専門家経費:コンサルタントや設計者報酬など
- 運搬費・設置費:機器搬入や設置の必要経費
- 外注費:部分的に外部事業者に委託する設計・加工など
対象外となる経費や注意すべき支出は、公募要領や交付要領で明記されていますので、申請前に必ず確認する必要があります。
申請の流れ
- GビズIDプライムアカウント取得:補助金申請は電子申請方式のため、GビズIDプライムアカウントが必須です。取得には時間がかかるので、早めの準備が必要です。
- 事業計画書作成・機械装置・システム選定:自社の業務プロセスに適した設備・システムを選定し、事業計画書に落とし込みます。
- 応募申請(電子申請):申請は電子申請システムから行い、必要情報を入力して提出します。
- 採択通知:採択までにはおおよそ 3か月程度かかる見込みです。
- 見積取得・事業者選定:交付申請時には、発注先の選定にあたり入手価格の妥当性を証明できるように 2社以上の見積もり取得 が原則要件となります。
- 交付申請:採択後、正式な交付申請を電子申請形式で提出します。
- 補助事業の実施:交付決定後、18か月以内 に補助事業を完了させます。
- 実績報告:補助事業完了後、30日以内または事業完了期限日のいずれか早い日までに実績報告書を提出します。
- 補助金交付:報告内容に基づき、補助額が確定した後、支払い請求を行い交付を受けます。
- 事業実施効果報告:補助事業完了後、5年間にわたり毎会計年度終了後 60日以内に効果報告が求められます。
中小企業省力化投資補助金「カタログ注文型」

カタログ注文型は、あらかじめ省力化製品カタログに登録された汎用性のある製品を選定・導入する方式の制度です。この方式を通じて、中小企業が手軽に省力化機器を導入できるようにし、生産性向上・賃上げ・人手不足解消につなげることを目的としています。
具体的には、補助対象企業が、製品カタログに登録された機器を選び、製品の販売事業者と共同で申請を行い、導入経費の一部を補助するというものです。
- 汎用性製品を中心に対象とするため、導入効果や適用性が比較的見通しやすい
- 申請手続きがシンプルで、比較的導入までのスピードが出やすい
- 製品選定の自由度は制限される(カタログ登録製品から選ぶ必要がある)
などの特徴があります。
リンク:中小企業省力化投資補助金カタログ注文型|申請における留意事項
補助対象者
補助対象者は、中小企業者、小規模事業者、特定非営利活動法人、社会福祉法人などです。補助対象者であっても、基本要件やその他の要件を満たす必要があります。
補助額と補助率
カタログ注文型の補助上限額は以下の通りです。
従業員数 | 通常補助上限額 | 賃上げ要件達成時(特例時)上限額 |
---|---|---|
5名以下 | 200万円 | 300万円 |
6~20名 | 500万円 | 750万円 |
21名以上 | 1,000万円 | 1,500万円 |
補助率は 1/2です。製品本体価格が単価50万円(補助額25万円)未満の場合は申請できません。
主な基本要件
- 労働生産性の向上目標:補助事業終了後 3年間で、申請時と比較して、年平均で労働生産性を 3.0%以上向上させる計画を策定し、実際にそれに取り組む必要があります。 また、全従業員の賃金が、最低賃金を下回らないことも要件です。
- 補助対象者・申請時の条件:補助事業者は、応募・交付申請時点で「中小企業等」に該当していなければなりません。また、国内で事業を営んでいることも要件となっています。
- 併用禁止:他の補助金制度との重複適用が禁止されており、重複対象とならないことが要件です。
- 賃上げ目標(上限拡張のための条件):賃上げ目標を設定し、それを達成する見込みを示すと、補助上限額を引き上げる特例が適用されます。主な要件は事業所内最低賃金を 45円以上 引き上げる計画であること、給与支給総額を 6%以上 増加させる計画であること、申請時に賃金引き上げ計画を従業員に表明していることなどです。
補助対象経費
カタログ注文型で補助対象となる経費は、省力化製品の設備投資における「製品本体価格」と「導入に要する費用(導入経費)」です。以下に、具体的な製品について解説します。
製品カテゴリ | 用途やポイント |
---|---|
清掃ロボット | 自律走行で床を清掃(湿式・乾式)。センサーで人・障害物を回避しながら清掃、省力化に寄与。 |
配膳ロボット | 客席への配膳や下げ膳を自動化し、ホール人員の省力化。 |
店舗・施設向けセルフ対応機器 (券売機/自動精算機 等) | セルフ会計やチケット発券で待ち時間・人件費を削減。 |
電子棚札システム (ESL) | 値札の自動更新で紙の貼替作業を削減。POS連携で誤表示防止・店舗運用を省力化。 |
店舗・施設向け デジタル映像システム (デジタルシネマ) | サーバ・プロジェクターの運用効率化、遠隔操作等で人手負担を軽減。 |
食品機械(スチコン等) | 調理時間短縮・歩留まり・再現性向上により省力化。 |
物流システム機器 (パレタイズロボット) | パレットへの荷積み・荷下ろしを自動化。重労働・安全リスクを軽減し、省力化と生産性向上。 |
物流システム機器 (デジタルピッキングシステム) | ライトガイド等でピッキング誤りを削減。表示器を制御PCで一括管理。 |
RFID (一括読み取りシステム) | ゲート型/定置型/ハンディ型で一括読取。棚卸・在庫精度向上、現場負担を軽減。 |
物品貸出管理機 | 工具・部品の貸出/返却を自動記録し、在庫・使用履歴を可視化。貸し忘れ・紛失を抑止。 |
丁合機 | 用紙ピッキング~丁合を自動化。属人性を低減し安定した生産力を確保。 |
平面・曲面印刷機 (パッド/ホットスタンプ) | 立体・多素材への高精度印刷。ラベル貼り作業等を削減。 |
一本バー搬送ロボット | 工程間搬送を自動化し、材料セット・取出しを省力化。品質ばらつきと事故リスクを低減。 |
プレスブレーキ用金型自動交換装置 | 多品種少量の段取り替えを自動化。重筋作業を軽減し、安全性・生産性を向上。 |
CNC 三次元測定機 | 寸法測定の自動化・高精度化で検査省力化。 |
自動画像測定機 | 画像処理で寸法を自動測定。 |
金属加工製品用洗浄装置 | 表面及び穴部洗浄・脱脂を自動化し、作業環境と品質を改善。 |
自動車整備:塗装ブース | 密閉空間でゴミ混入・ミスト拡散を防止。乾燥設備等を備え、塗装品質と効率を向上。 |
製品カタログは随時更新されます。
最新の情報は公式HP等を確認するようにしましょう。
申請の流れ
- GビズIDの取得:電子申請方式が採用されているため、GビズIDプライムアカウント等を事前に準備します。
- 製品選定(カタログ参照):補助金公式サイトで公開されている製品カタログから、自社で導入したい製品を選びます。 選定後、製品の販売事業者を確認し、共同申請に向けて話を進めます。
- 共同申請:申請には、補助対象企業と製品販売事業者との 共同申請 が必要です。販売事業者と協力して事業計画を作成・提出します。 販売事業者からの招待をもって申請可能となるため、申請フォームはサイト上にないためご注意ください。
- 申請・交付決定:電子申請システムを通じて申請を行い、審査を経て交付決定されます。
- 導入・実施:交付決定後、実施期間内に製品を導入し、補助事業を行います。
- 実績報告:導入後、定められた期限内に実績報告を行います。報告内容には、支払い証憑の確認、導入後の運用状況、成果(生産性・賃金変化等)を含めます。
- 補助金請求:交付実績報告をもとに補助額が確定し、補助金を請求して交付を受けます。
- 効果報告:補助事業完了後、3年にわたって労働生産性や賃金水準などの効果について報告します。
一般型とカタログ注文型の比較

一般型とカタログ注文型の違いについて、以下の表にまとめました。
一般型 | カタログ注文型 | |
---|---|---|
補助額 | 750万円~最大10,000万円 | 200万円~最大1,500万円 |
補助対象 | 個別現場の設備や事業内容に合わせた設備導入・システム構築 | 「省力化製品カタログ」内の登録済み製品から選択 |
申請難易度 | 高い | 低い |
導入スピード | 計画承認後に導入。大型投資のため時間を要する。 | 採択後すぐに発注可能。短期で効果が出やすい。 |
メリット | ・自由度が高く、柔軟な投資が可能 ・補助金額が大きく、工場改修なども対象 ・独自技術・DX投資にも対応 | ・手続きが簡易で申請しやすい ・即効性が高く効果を実感しやすい ・小規模企業でも採択されやすい |
デメリット | 書類作成の手間が大きい ・審査が厳しく採択率に差が出る ・効果測定や事業報告に時間がかかる | ・製品選択が限定的 ・投資規模が小さい ・業種によっては最適製品がない |
適している 企業 | 中長期的に業務改革・事業拡大を目指す企業。製造ライン自動化、IT導入、建物改修などを検討している企業。 | 日常業務の省力化や人件費削減を短期間で実現したい企業。店舗業務・接客業務など労働集約型事業に最適。 |
活用例 | ・工場の無人搬送ライン構築 ・AI検査装置導入 ・クラウドERPシステム開発 ・新市場向け自社製品の量産設備整備 | ・配膳・清掃ロボット導入 ・自動チェックイン機設置 ・自動精算レジ導入 ・厨房機器の自動化 |
FAQ(よくある質問)

一般型とカタログ型の最大の違いは何ですか?
般型は「自社の計画に基づく自由提案型」、カタログ型は「登録済み製品を選んで導入する定型型」です。一般型では自社の業務改善・事業再構築に応じて、機械装置・システム・建物改修など多様な経費を組み合わせて申請できます。一方でカタログ型は、事務局のカタログに登録された製品の導入に限定されます。
賃上げを実現できなかった場合はどうなりますか?
原則として補助金の一部または全額返還を求められます。ただし、天災・経営環境悪化など事業者責任でない理由が認められる場合は、返還が免除されることがあります。
採択率はどの程度ですか?
公表値は回によって異なりますが、おおむね一般型が30〜40%前後、カタログ注文型が70~80%前後となっています。
専門家の支援を受ける必要はありますか?
必須ではありませんが、採択率を高めるうえで強く推奨されます。税理士・中小企業診断士・商工会議所など、補助金支援経験のある専門家に相談することで、要件漏れや書類不備を防ぐことができます。
まとめ

いかがでしたか?
本記事では、中小企業省力化投資補助金について、制度の概要や注意点について解説してきました。
中小企業省力化投資補助金は、「人手不足」「業務の非効率」「賃上げ負担」といった多くの企業が直面する課題を同時に解決できる制度です。
特に一般型は、将来を見据えた大規模な投資を計画する企業に、カタログ注文型は、現場で即効性のある省力化を実現したい企業にとって、それぞれ非常に有効な支援策となります。
本補助金を上手に活用し、「人手不足をチャンスに変える経営」を実現していきましょう。
申請の型や申請手続き等に迷われた際は、ぜひビジネス・カタリストをはじめとしたシェルパグループにお気軽にお声がけください。
本記事が中小企業省力化投資補助金についての理解を深めるうえでお役に立てますと幸いです。
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