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地震や台風、感染症、サイバー攻撃など、企業経営を脅かすリスクは年々多様化しています。特に中小企業にとって、突発的な災害や事故による事業停止は、経営の継続そのものを左右しかねません。
このような「もしも」の事態に備え、被害を最小限に抑え、早期復旧を目指すための計画こそが「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」であり、近年注目が集まっています。
また、国が中小企業者の「BCP策定のスモールステップ」として位置づけて推進している「事業継続力強化計画」認定についても、中小企業者が簡単にBCP策定をすることができるだけでなく、補助金採択や税制メリットを受けることができる制度として注目されています。
本記事では、BCPや事業継続力強化計画の概要や重要性、また策定・運用の手順について、わかりやすく解説していきます。
詳細や最新の情報は、公式ホームページを確認するようにしてください。
リンク:1.1 BCP(事業継続計画)とは|中小企業庁 / BCPはじめの一歩 事業継続力強化計画をつくろう|中小企業基盤整備機構
BCP(事業継続計画)とは

BCPとは、自然災害・感染症・サイバー攻撃・テロ・大規模停電などの緊急事態が発生した際に、企業の重要な業務を中断させず、または早期に再開できるようにするための計画を指します。
単なる「防災計画」や「避難訓練」とは異なり、BCPは「経営を止めないための具体的な行動計画」です。
その目的は、次の3点に集約されます。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| ① 事業資産の保護 | 人命・情報・設備・資金を守る |
| ② 早期復旧 | 中核業務を迅速に再開し、損失を最小化 |
| ③ 社会的信頼の確保 | 顧客・取引先・地域社会からの信頼を維持 |
BCPの重要性について
なぜ今、BCPの重要性が叫ばれているのでしょうか。その背景について、以下に解説していきます。
災害・感染症リスクの増加
日本は地震・台風など自然災害が多く、加えて新型コロナウイルスのようなパンデミックが経済活動に大きな影響を与えました。BCPを策定していない企業では、被害後の復旧が遅れ、倒産に至るケースも少なくありません。
中小企業庁の調査によれば、災害で被災した中小企業の約4割が1年以内に廃業しているとされています。この背景には「資金繰りの悪化」「代替拠点・仕入れ先の確保不足」「人材確保の困難」などが挙げられます。
サプライチェーンの要請
大手企業を中心に、「取引先にもBCP策定を求める」動きが広がっています。
取引継続の条件として、BCPの有無が求められるケースも増えており、策定していないことで新規取引のチャンスを逃す可能性もあります。
金融機関や自治体の評価要素
BCPの有無は、信用保証協会・金融機関の融資評価項目にも含まれ始めています。
また、自治体の入札や補助金申請時にも、BCP策定が「加点対象」となるケースが多く、経営上の優位性を高める効果もあります。
経営改善のきっかけ
BCPを策定することにより、その会社の経営方針や事業内容の見直しにもつながります。BCP策定を「有事の特別な取り決め」として位置付けるのではなく、経営における基本的な取り組みとして位置づけ、組み込んでいくことで、永続的な経営へとつなげることができるのです。
BCP策定をしないリスク

BCP策定をしている企業としていない企業では、リスク発生時に以下のような対応の差が発生するといわれています。
| 項目 | BCPを策定していた企業 | BCPを策定していなかった企業 |
|---|---|---|
| 初動対応のスピード | ・行動マニュアルがあり、即時に避難誘導や安否確認を開始 ・責任者が明確で指示が途切れない | ・指示系統が混乱し、対応が遅れる ・誰が判断するか不明確で混乱が拡大 |
| 従業員の安否確認 | 安否確認ツールや連絡網が整備され、数時間以内に大半を把握 | ・電話・メールが混線し確認が遅れる ・安否不明者が長時間発生 |
| 被害状況の把握 | 優先業務や重要設備が事前に整理されており、確認ポイントが明確 | 何から確認してよいか分からず、被害把握に時間を要する |
| 事業の継続・停止判断 | ・代替拠点や代替手段が決まっており、中核業務を早期に再開できる ・停止範囲を最小化できる | ・判断が遅れ、全面停止になるケースが多い ・再開日程が立たない |
| サプライチェーン対応 | ・複数仕入先の確保や代替ルートが準備されている ・顧客への連絡も迅速 | ・主要仕入先の停止で生産不能になる ・顧客からの信頼低下や取引縮小 |
| 情報管理 | データをクラウドバックアップしており、紛失や破損時も復旧可能 | 紙書類やローカルPCが被災し、重要データ喪失リスクが高い |
| 財務面(資金繰り) | 緊急時の資金繰り計画や支援制度の把握により、早期に資金調達が可能 | 対応が遅れ、資金ショートのリスクが高まる |
| 復旧までの期間 | 数日〜数週間で部分的に再開 | 数週間〜数か月の休業が発生し、廃業リスクが高まる |
| 取引先・顧客からの信頼 | 「対応が早い企業」として評価向上 | 「危機に弱い企業」と見なされ、信用低下につながる場合も |
このように、BCP策定の有無は、企業存続の可否に直結してしまうといえるでしょう。
BCPの策定・運用方法

では、BCPの策定・運用は、具体的にはどのように策定・運用すればよいのでしょうか。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」に基づき、以下のステップごとに詳しく解説していきます。
ステップ1:基本方針の立案
最初のステップとして、BCP策定・運用の基本方針について立案する必要があります。
緊急時の対応には、事前対策も含めて、社員や取引先とも一致団結して行動することが不可欠です。そのため、「何のために、どのような意味合いを持って策定するのか」ということをよく検討する必要があります。
ステップ2:重要業務の特定
全業務を守ることは現実的ではありません。
災害時でも「止めてはいけない業務(中核業務)」を特定することが鍵です。
<例>製造業の場合
- 顧客への出荷・納品業務
- 生産ライン稼働維持
- 仕入先・外注先との連携維持
これらを「優先順位」と「復旧目標時間」を設定して管理します。
ステップ3:リスクの洗い出し
自社の業務にどのようなリスクがあるかを整理します。
代表的なリスクには以下のようなものがあります。
| 分類 | 例 |
|---|---|
| 自然災害 | 地震・台風・豪雨・土砂災害・洪水 |
| 社会的リスク | 感染症・テロ・犯罪・停電 |
| 経営リスク | 仕入先停止・顧客離脱・サイバー攻撃・情報漏洩 |
| 人的リスク | 経営者・従業員の病気や退職、労災事故 |
「どのリスクが発生したら、何が止まり、どの程度の被害になるのか」を可視化し、優先順位をつけることが重要です。
ステップ4:対策の検討
リスク発生時に備え、「代替拠点」「代替要員」「代替機器」「データバックアップ」などを事前に準備します。
| 項目 | 具体策 |
|---|---|
| 拠点 | 他工場・他支店の活用、レンタルオフィス確保 |
| 要員 | 代行担当者・業務マニュアル整備 |
| 設備 | 予備機器・サプライヤーの複線化 |
| データ | クラウドバックアップ・遠隔保管 |
特にITデータや顧客情報は、クラウド管理や外部サーバーでの冗長化が有効です。
ステップ5:BCP文書の策定
発災時に誰が、いつ、何をするのかを明確にすることが重要です。緊急時連絡網、指揮命令系統、復旧手順を文書化しておきましょう。
<例:初動対応の基本行動>
- 人命安全の確保
- 被害状況の把握
- 代替拠点の確保
- 顧客・取引先への連絡
- 社内外への情報発信
- 復旧作業の開始 など
記すべきことや保存すべき書類などは、中小企業庁の資料を参考に作成しましょう。
リンク:BCP記入シート(入門コース)|中小企業庁 / 中小企業BCP策定運用指針|中小企業庁
ステップ6:訓練・見直し・改善
BCPは「作って終わり」ではなく、定期的に訓練し、改善を重ねることが不可欠です。代表者や担当者だけでなく、社員全員や取引先にも周知を繰り返し、定着させるようにしましょう。
<例:見直し・定着のための方策>
- 年1回の防災訓練・安否確認訓練を実施
- 各従業員や新入社員へのBCP教育・研修を実施
- 経営環境や取引先変更時に内容を更新する
PDCAサイクルをきちんと回すことで、現実的かつ実践的なBCPへと進化させることができます。
事業継続力強化計画(通称:ジギョケイ)とは

中小企業向けの防災・減災対策の第一歩として位置付けているのが「事業継続力強化計画」です。こ
れは、自然災害などの緊急時における人命確保や設備保全、初動対応、早期復旧の方針などを簡潔にまとめ、国の認定を受ける制度です。BCPの“簡易版”の位置付けであり、策定負担が比較的軽いことが特徴です。
計画には1社で作成する「単独型」と、複数の企業が連携して作成する「連携型」の2種類があります。連携型は、企業同士が連携することによって、さらに効果的な対策を立てることができます。
認定の主なメリットは、
- 認証マークの発行:名刺やwebサイトに掲載することができます
- 税制措置・金融支援:災害対策として購入した設備の特別償却の適用や、優遇金利を受けることができます
- 補助金の加点:持続化補助金やものづくり補助金など、国の補助金の加点要素として活用できます
となっています。
BCPとの比較

BCPと事業継続力強化計画の違いは、主に以下の通りです。
| 項目 | BCP(事業継続計画) | 事業継続力強化計画 |
|---|---|---|
| 位置付け | 本格的な事業継続戦略 | BCPの簡易版・入門版 |
| 制度の有無 | 認定制度なし(社内計画) | 経産省の認定制度あり |
| 対象リスク | 災害・感染症・サイバー攻撃・サプライチェーンなど幅広い | 主に自然災害・初動対応に重点 |
| 内容 | 代替拠点計画、重要業務特定、復旧手順など詳細 | 人命確保、設備保護、連絡体制など基礎項目中心 |
| 作成難易度 | 中~高(専門知識が必要) | 低~中(ひな形で簡易に作成可能) |
| メリット | 企業の信頼性向上、供給責任の強化 | 補助金加点、信用保証の優遇、税制措置 |
| 作成期間 | 数週間~数か月 | 数時間~数日 |
| 推奨される企業 | 取引基盤が広い企業、災害リスクが高い企業 | まずは防災対策を始めたい中小企業 |
記載項目と申請方法

事業継続力強化計画の申請書に記載する項目と申請手順は以下の通りです。
記載項目
- ハザードマップ等を活用した自然災害リスクの確認方法
- 安否確認や避難の実施方法など、発災時の初動対応の手順
- 人員確保、建物・設備の保護、資金繰り対策、情報保護に向けた具体的な事前対策
- 訓練の実施や計画の見直しなど、事業継続力強化の実行性を確保するための取組
申請手順
- 申請に向けて金融支援や税制措置の事前確認
- 中小企業庁の電子申請システムへ登録
- 事業継続力強化計画の様式に記載
- 電子申請
- 1〜2か月後に認定通知
※認定後の実施期間は3年以内と規定されており、認定を受けた期間満了後も継続して取組を行う場合は再度の新規申請が必要です。
事業継続力強化計画策定で加点となる主な補助金

事業継続力強化計画の認定を受けることにより、主に以下のような補助金の加点項目として活用することができます。
| 補助金名 | 概要 | 補助額 / 補助率 |
|---|---|---|
| ものづくり補助金 | 革新的な設備投資や生産性向上投資を支援 | 最大3,000万円(1/2〜2/3) |
| 小規模事業者持続化補助金 (一般型 / 通常枠/創業型) | 販路開拓・生産性向上の取り組みを支援 | 最大250万円(2/3〜3/4) |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 省力化・自動化設備の導入を支援 | 最大1億円(1/2〜2/3) |
| 事業承継・M&A補助金(専門家活用枠) | 事業承継・M&Aを契機とした投資や専門家活用を支援 | 最大800万円(1/2〜2/3) |
| 自治体独自補助金(防災・減災対策、設備導入等) | 防災設備・非常用電源・耐震化などを支援 | 自治体により異なる |
競争が激化する補助金申請において、事業継続力強化計画認定は中小企業の強い味方となってくれるでしょう。
FAQ(よくある質問)

BCPはどの企業にも必要ですか?小規模事業者でも策定すべきでしょうか?
必要です。規模に関係なく、災害・感染症・サイバー攻撃による影響は避けられません。特に小規模事業者は「代替要員が少ない」「資金体力が弱い」ため、事業停止がそのまま廃業につながりやすい傾向にあります。BCPは会社を守る“最低限の備え”として必須です。
BCPは一度作成すれば終わりですか?見直しは必要ですか?
継続的な見直しが必要です。設備更新、従業員の入れ替わり、取引先の変更、新たなリスク(感染症・サイバー攻撃)など、環境は常に変化します。最低でも年1回の見直し、災害発生後や大きな組織変更後にも更新することが推奨されています。
BCPと事業継続力強化計画は何が違いますか?
BCPは企業独自の「事業を止めないための包括的な計画」です。一方、事業継続力強化計画は中小企業向けの“簡易版BCP”であり、経済産業省へ申請して認定を受けられる制度です。補助金加点・税制優遇のメリットがあるため、まずは事業継続力強化計画の策定から始める中小企業が増えています。
事業継続力強化計画の計画書の作成は難しいですか?専門家に依頼すべきでしょうか?
国が提供している「ひな形(テンプレート)」に沿って記入すれば、初めてでも2〜3時間で作成できます。内容は簡易なBCPのような構成で、難しい専門用語もありません。ただし、より実効性を高めたい場合や補助金活用を見据える場合は、税理士・中小企業診断士など専門家のサポートが有効です。
まとめ

いかがでしたか?
本記事では、BCPや事業継続力強化計画の概要や重要性、また策定・運用の手順について解説してきました。
- 経営者主導で現実的なBCPを策定する
- 定期的な訓練・見直しを実施する
- 中小企業社はまず事業継続力強化計画の認定を目指す
これらを計画的に行うことで、企業の持続可能性と信頼性を高めることができます。
BCPは、企業が「生き残るための経営戦略」といっても過言ではありません。
災害・感染症・サイバー攻撃など、予期せぬリスクは避けられませんが、「備えがある企業」と「備えのない企業」とでは、被害後の結果が大きく異なるのです。
BCPや事業継続力強化計画の策定等に迷われた際は、ぜひビジネス・カタリストをはじめとしたシェルパグループにお気軽にお声がけください。
本記事がBCPや事業継続力強化計画についての理解を深めるうえでお役に立てますと幸いです。
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