前回のあらすじ
山田建設の二代目社長である山田健太郎は、円安に伴う資材高騰や慢性的な人手不足など、数々の経営課題に直面していました。父から受け継いだ会社の存続に不安を抱えるなか、顧問税理士の村上から提案されたMAS監査を試みることに。現状分析を通じて、健太郎は父の経験則を現代の経営管理手法と組み合わせることで、問題の本質を把握し始めます。物流施設の補修工事に特化した長年の実績に基づき新たな戦略を策定し、社員一丸となって新たな一歩を踏み出します。

【MAS監査・第1回】山田建設の挑戦〜5ステップで実現する理想の経営〜
※ この物語はフィクションです。また、MAS監査の手法はケースによって異なります。
【実行計画立案フェーズ『道筋を立てる』】

山田建設の会議室に、重苦しい空気が漂っていた。
村上はファイルを広げた。表紙には「実行計画書」の文字。
ページをめくると、前回の戦略会議で決定した数々の施策が、時系列で整理されている。

具体的なアクションプランに落とし込む段階です。誰が、いつまでに、何を、どのように実行するのか
先代が腕を組んで話し始めた。

うちの社員は、まだ経験が足りない。私から具体的に指示を・・・

お待ちください
村上は、丁寧にその言葉を受け止めた。ファイルから、一枚の工程表を取り出す。

まず、山田建設様の現在の工事フローを、整理させていただきました
そこには、一つの工事が完了するまでの全工程が、詳細に図示されていた。見積作成から着工、施工管理、検収まで。各プロセスの担当者、必要な時間、注意点が細かく記載されている。


藤村さん、現場からご覧になっていかがでしょうか
村上は、ベテラン職人の藤村に視線を向けた。実行計画には、現場の声が不可欠だ。
藤村は少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。

藤村
確かに、見積の遅れで工程が圧迫されることはよくあります。特に、材料の手配が・・・

具体的に、どんなケースがありましたか?
村上の質問に、藤村は徐々に話し始める。普段は寡黙な彼が、これまでの経験から培った知見を次々と語り出した。話が進むにつれ、新たな付箋が工程表に追加されていく。
健太郎は、その様子を真剣な面持ちで見つめていた。父の世代が築き上げてきた経験と、新しいシステムをどう融合させるか。その答えが、ここにあるのかもしれない。

では、これらの課題に対する具体的な施策を検討しましょう
村上は、新しい表を広げた。
【改善施策一覧】
1. データベース構築と見積作成プロセス改善
実施事項:
– 見積データベースの構築(過去3年分)
– クライアントとの見積回答フォーマット統一
– 承認プロセスのワークフロー化
期待できる効果:所要時間を5日→2日に短縮
担当:営業部 山本
期限:2025年8月末
2. 工事管理システム導入
実施事項:
– システム選定(3社比較)
– 試験導入(2現場)
– 本格導入
担当:工事部 藤村
期限:2025年12月末
3. 技能承継プログラム
実施事項:
– 作業手順の文書化(重要工程から優先)
– 研修プログラム作成
– OJTシート作成
担当:工事部 藤村・田中
期限:2026年3月末
先代は、その表に目を凝らした。

これだけの変更を一度におこなって、現場は混乱しないのか

その懸念はごもっともです
村上は、次のページを開く。そこには、施策の優先順位と段階的な導入スケジュールが示されていた。


各フェーズで、必ず効果を確認します。問題があれば、すぐに修正できる体制を整えます
その説明に、先代の表情が和らいでいく。経験に基づく懸念と、データに基づく計画。両者のバランスが、ここでも重要になる。

藤村さん、このスケジュールで現場は回りそうですか?
健太郎が、現場のトップに確認を求めた。
藤村は、しばらく資料を見つめていた。

藤村
これなら、やれそうです。ただし・・・
彼の「ただし」から、新たな検討課題が見えてきた。
現場からの率直な声が、計画をより実効性の高いものへと進化させていく。
【組織共有フェーズ『共に進む』】

山田建設の会議室には、珍しく全社員が集まっていた。10名という小規模な会社だからこそ、全員で共有する意味は大きい。

皆さんと一緒に、会社の現状と今後について率直に話し合いたいと思います
健太郎は、一枚一枚資料をめくりながら、現状の課題と今後の方向性を説明していく。
経営の現場、受注状況、そして目指す未来の姿。普段は経営陣だけで共有していた情報を、すべてオープンにした。
最初は戸惑いの表情を見せていた若手社員たちも、具体的な説明が進むにつれ次第に前のめりになっていく。
「実は、こんな問題で困っていました」
「もっと効率的な方法があるかもしれません」
次々と挙がる現場からの声に、先代も真剣に耳を傾けている。
工事部の田中が手を挙げた。

私たち若手にも、先輩方の技術を受け継ぐ機会を作っていただけるのは本当にありがたいです。ただ、マニュアルを作るだけでなく、実際の現場で先輩方の動きを見て学びたい
なるほど、と藤村が頷く。

藤村
確かに、言葉だけでは伝わらない部分がある。現場でのOJTとマニュアルの作成を並行して進めたらどうだろう
経理の中村も発言した。

見積書のデータベース化は、経理部門としても助かります。ただ、クライアント様ごとに見積書の様式が違うので、入力の手間が・・・
それなら、と営業の山本が身を乗り出す。

クライアント様との定例会議で、様式の統一について相談してみましょう。信頼関係のある会社から、少しずつ
健太郎は、議論が活発に行き交う様子を見守っていた。数字や図表で示された課題が、社員一人一人の具体的な行動プランへと変わっていく。
村上は、感心した様子で発言する。

みなさんの意見を聞いていると、より現場に即した改善案が見えてきますね
最後に、先代が立ち上がった。

これまで長年、経験と勘を重視してきた。それは間違っていなかったと今でも思っている。しかし、その経験を次の世代に伝えるには、今回のような”見える化”が必要なんだろう
健太郎は、会議室を見渡した。全員の表情に、これまでにない決意と期待が浮かんでいる。山田建設は、まさに新しいステージへと踏み出そうとしていた。
【継続的改善フェーズ『歩みを進める』】

実行計画から2ヶ月が経過し、月次レビューがおこなわれた。村上は、ファイルを開きながら、穏やかな口調で切り出した。

予定どおりには、いかないものですね
表紙には「改善活動報告書」の文字。ページをめくると、グラフと表が並ぶ。予定と実績の比較、差異分析、改善提案が細かく記載されている。
「見積所要日数の目標は2日でしたが、実績は平均3.5日」
健太郎は、その数字に目を落としたまま、わずかにため息をつく。データベース化を進めても、現実は思うようには進まない。

しかし、ここに注目です
村上は、グラフの一部を指さした。


データベース化により、検索時間が大幅に短縮されています。次は、クライアント様とのやり取りや承認プロセスの改善が必要です
先代が、資料に目を凝らす。

お客様との関係は、単純にシステム化すれば解決するものではないぞ

おっしゃるとおりです
村上は、新しいページを開いた。そこには、主要なクライアント10社へのヒアリング結果が整理されていた。
【クライアントの声】
- 見積依頼が急なケースが多い
- 仕様の詳細が不明確
- 過去の工事の反省点が共有されていない
- 支払条件の柔軟な対応を希望

これらの声を、改善につなげていく必要があります
健太郎は、手元のメモに目を落とした。確かに、クライアントとの関係は、父の代から築き上げてきた信頼関係が基盤にある。その人間関係を大切にしながら、いかに効率化を図るか。

実は、いい事例が出てきています
村上は、一枚の工事報告書を取り出した。A社との取引における変化を示すグラフだ。


藤村さん、現場の変化について、感じることはありますか?
ベテラン職人の藤村は、普段は寡黙だが、この話題については熱が入る。

藤村
確かに、図面や仕様書が見やすくなりました。経験の浅い社員も、以前より段取りがスムーズになってきています
その言葉に、先代が目を細める。長年の経験を持つ職人が、新しい取り組みに手応えを感じている。それは、大きな変化の兆しだった。

では、次の改善アクションを検討しましょう
村上が取り出したのは、A3サイズのPDSサイクルシート。現状の課題から、具体的な改善案、実施スケジュールまでが一枚の用紙に整理されている。

Plan(計画)、Do(実行)、See(評価)のサイクルを回しながら、一歩一歩進んでいきましょう。この繰り返しにより、確実な経営改善へ繋がっていきます
健太郎は、窓の外を見やった。木場の街並みに夕日が映え、物流倉庫の向こうに、次々と明かりが灯り始めていた。
かつて不安げに眺めていたこの景色が、今は希望に満ちて見える。データと経験の融合、新旧の調和、そして何より、全員で進む確かな手応え。
山田建設の新しい物語は、確実に前へと動き始めていた。

おわり
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