2025年4月22日、中小企業庁は「中小企業新事業進出補助金」の公募要領を公開しました。この補助金は、既存事業とは異なる新市場や高付加価値事業への進出を目指す中小企業等を支援する制度で、企業の成長・拡大を促進することを目的としています。また、この補助金は事業再構築補助金の後継的補助金としても注目されています。本記事では、中小企業新事業進出補助金について、詳細や公募要件、申請する際の注意点についてわかりやすく解説していきます。
詳細や最新の情報は、事務局ホームページを確認するようにしてください。
リンク:中小企業新事業進出補助金
中小企業新事業進出補助金とは?

中小企業新事業進出補助金は、既存事業とは異なる新市場や高付加価値事業に挑戦する中小企業等を支援し、企業規模の拡大や付加価値向上を通じた生産性向上を図ることを目的とした制度です。既存の事業領域から抜け出し、新たな製品・サービスを展開することで雇用の維持・創造や賃上げ効果を期待できるため、特にものづくり業やIT関連サービス業など、顧客層や取扱い製品が多岐にわたる企業に適している補助金です。
公募要項
補助対象事業者補助額は、申請者の従業員数に応じて決定されます。
日本国内に本社および補助事業実施場所を有する中小企業者・特定事業者・対象リース会社等であり、応募申請日時点で資本金や従業員数が中小企業基本法に定める範囲内である事業者が対象となっています。
(例:製造業の場合、資本金3億円以下また従業員300人以下)
ただし、過去16か月以内に本補助金や事業再構築補助金、ものづくり補助金を交付候補者として採択された事業者、創業1年未満の事業者、従業員数0人の事業者、みなし大企業等などは対象外となります。
助対象事業の要件
新規事業が以下の要件をすべて満たしていることが条件です。
- 製品等の新規性要件:公募開始日以降に初めて取り組む製品・サービスであること。
- 市場の新規性要件:既存事業では対象としていない顧客層を狙う市場であること。
- 新事業売上高要件:事業期間最終年度において、新事業による売上高が応募申請時の総売上高の10%以上(または総付加価値額の15%以上)が見込まれるものであること。
その他にも「賃上げ要件」「事業場内最賃水準要件」「ワークライフバランス要件」「金融機関要件」「賃上げ特例要件(賃上げ特例適用時に追加)」などの要件を満たす必要があり、要件未達の場合には補助金の返還を求められる要件もあるため注意が必要です。
補助対象経費
補助対象経費は以下の通りです。
- 機械装置・システム構築費
- 建物費
- 運搬費
- 技術導入費
- 知的財産権等関係経費
- 外注費(検査・加工・設計等に係るもので、補助金額全体の10%まで)
- 専門家経費(補助上限100万円)
- クラウドサービス利用費
- 広告宣伝・販売促進費(事業計画期間1年あたりの売上高見込み額(税抜き)の5%まで)
なお、「機械装置・システム構築費」又は「建物費」のいずれかが必ず補助対象経費に含まれていなければなりません。(中小企業新事業進出補助金は、中小企業等が将来にわたって持続的に競争力強化を図る取組を支援することを目的としているため、補助対象経費には、補助事業の事業化に必要不可欠な事業資産(有形・無形)が含まれている必要があるため)
また、パソコンや複合機など、汎用性が高く目的外使用になり得るものや、自動車等車両購入費、詳細や用途が確認できない費用は補助対象外となります。
補助額
補助額は、申請者の従業員数に応じて決定されます。
従業員数 | 補助額※ |
---|---|
20人以下 | 750万円~2,500万円(最大3,000万円) |
21~50人 | 750万円~4,000万円(最大5,000万円) |
21~50人 | 750万円~5,500万円(最大7,000万円) |
101人以上 | 750万円~7,000万円(最大9,000万円) |
※ 賃上げ特例の適用による補助上限額の引上げを受ける事業者の場合、括弧内の補助上限額を適用
補助率
補助率は1/2です。
公募スケジュール
公募要領公開 | 令和7年4月22日(火) |
応募受付開始 | 令和7年6月17日 |
応募締切 | 令和7年7月10日(木)18:00(厳守) |
採択結果通知 | 10月頃を予定 |
補助事業期間 | 交付決定日から14か月以内 (採択発表日から16か月以内) |
申請までの流れ
- 会社全体の事業計画を見直し、新事業による付加価値創出や市場開拓の方向性を整理する
- GビズIDプライムアカウントを取得する(取得には時間がかかるため、早めの準備が必要)
- 一般事業主行動計画の策定・公表(次世代育成支援対策推進法に基づく)(公表まで1~2週間程度)
- 自社の「新事業進出指針(手引きPDFを参照)」に基づき、製品等の新規性、市場の新規性、新事業売上高の各要件を満たす事業計画書を作成
- 認定経営革新等支援機関(認定支援機関)による認定を受ける
- 電子申請システム(jGrants)にログインし、公募要領に沿った項目を入力・必要書類を添付し、電子申請する
事業再構築補助金との違いについて

中小企業新事業進出補助金と並んで広く知られる「事業再構築補助金」は、コロナ禍の影響を受けて既存事業の再構築や業態転換を支援する制度です。一方で、新事業進出補助金は、そもそも「既存事業とはまったく異なる新市場・高付加価値事業」への挑戦を後押しする点が特徴です。
中小企業新事業進出補助金 | 事業再構築補助金 | |
---|---|---|
対象事業の範囲 | 応募企業にとって全く新規の製品・サービスであることが求められ、過去に取り組んでいた製品を応用するレベルでは要件を満たさない (製品等の新規性要件) | 既存事業から派生させる形で、新分野展開、業態転換、事業・サービスの転換等が対象 |
要件 | 売上要件が「新事業売上高が応募時点の売上高の10%以上」、かつ製品等・市場の新規性を厳格にチェックされるなど、要件が厳格 | 売上高要件や自社の事業再構築に伴う付加価値創出が重視される |
審査観点 | 企業が自社として全く未経験の領域に挑む意欲や計画の合理性・実行可能性に加え、新市場への開拓意義が問われる | コロナ禍からの再生・回復を目的とした経営革新が重視される |
このように、中小企業新事業進出補助金と事業再構築補助金では、「過去に手がけた事業の延長線上にある改革」か、「まったく新しい市場への挑戦」かという点で趣旨が異なります。
注意点:新事業進出の定義について

中小企業新事業進出補助金の要件で最も悩みやすいのが「新事業進出の定義」です。ここでは、「製品等の新規性要件」「市場の新規性要件」「新事業売上高要件」の3つの要件のポイントについて、具体的中身と注意点を解説します。
製品等の新規性要件
製品等の新規性要件とは、「応募者が過去に製造・提供した実績がない製品・サービスを新たに事業化すること」を指します。そのため申請時には「どの点がこれまでと異なり、新たに市場投入する製品なのか」を明確に定量・定性の両面で説明し、過去に同様の事業を行っていないことを示す必要があります。ポイントは以下の通りです。
- 公募開始日以降に初めて事業化するもの:令和7年4月22日以降に、計画段階から実際に製造・販売等を開始する製品・サービスを対象とし、公募開始日時点で既に事業化(第1段階以上:宣伝や販売開始している状態)している場合は要件を満たしません。
- 過去に事業化した製品の再製造・サービスの再提供はNG:例えば、以前に製造していた金属部品を再び同じ仕様で製造する場合や、既存の半導体製品と同等性能の新製造手法だけを変えた場合は「新規性なし」と判断されます。
- 単なる製造量の増大や工程改善は対象外:既存製品の生産量を単に拡大するだけ、あるいは作り方を若干変更するだけでは「新製品」と認められず、要件不適合となります。
市場の新規性要件
市場の新規性要件とは、「新規事業で扱う製品・サービスの市場が、応募企業にとって既存事業の顧客層と明確に異なること」を指します。新規事業の市場設定では「誰に」「どのようなニーズで」「なぜ既存事業では対応できないのか」を明確にし、既存事業とは差別化された新市場を具体的に示すことが重要です。ポイントは以下の通りです。
- 顧客層の切り分け:既存事業は法人向けであったが、新事業は個人消費者向け、あるいは特定の業種(医療・教育など)かつ法人向けなど、まったく異なる属性の顧客を対象にする必要があります。
- 市場の範囲変更だけではNG:単に地域を変えただけ(例:従来はA市で販売してきたが、B市に進出する)や既存取引先が求める別仕様の製品を作る場合など、顧客層自体に変化がないケースは要件不適合です。
- 市場の一部に特化するだけではNG:既存でトータルに展開してきた製品群の一部(例:アイスクリームのうちバニラ味だけ)をピックアップして販売するなど、顧客層が変わらない場合は要件を満たしません。
新事業売上高要件
新事業売上高要件とは、事業期間最終年度において「新規事業による売上高(または付加価値額)が、応募時点の総売上高の10%以上(付加価値額なら15%以上)が見込まれること」を指します。
この要件が守られない場合、採択後に補助金が取り消される可能性があるため、早い段階から財務シミュレーションを行い、新事業による収益性や採算性を慎重に検討することが必要です。ポイントは以下のとおりです。
- 数値目標の設定:申請時点(直近決算期)の総売上高を基準に、新事業が開始から一定期間(3~5年程度)で売上高比率10%以上に達する計画を示す必要があります。根拠となる調査・試算:市場規模や参入シェア、価格設定、販路開拓プランなどを踏まえ、売上高計画の合理性を担保する根拠資料(市場調査結果や見込みシミュレーション)を提示しなければなりません。
- 付加価値額での評価も可能:売上高だけでなく、総付加価値額を用いることも可能で、事業期間最終年度において15%以上を目指す計画でも要件を満たすことが可能です。
事業特性に応じてどちらを選択するか検討しましょう。
よくある質問(FAQ)

中小企業新事業進出補助金は誰でも申請できますか?
日本国内に本社および補助事業実施場所を有し、中小企業基本法で定める中小企業であれば原則申請可能です。ただし、創業1年未満の事業者、従業員が0人の事業者、過去に類似補助金の採択実績がある事業者など、一部は対象外となるため公募要領をご確認ください。
補助対象になる「新事業」とはどのようなものですか?
既存の事業とは異なる「製品・サービス」かつ「市場」に取り組む事業が対象です。過去に販売していたものや既存顧客向けの展開では対象になりません。また、新事業の売上が将来的に一定割合以上を占める計画であることも要件です。詳細は「新市場・高付加価値事業の考え方」、また公募要領をご確認ください。
建物の改装費や機械の購入費も補助対象になりますか?
はい、補助対象経費に「建物費」や「機械装置・システム構築費」が含まれており、このいずれかを含めることが必須となります。
ただし、原則として既存施設の修繕や通常の業務で使う汎用機材は対象外となる場合があります。
どのような企業が採択されやすいですか?
採択されやすい傾向としては、「明確な新規性」「実現可能性の高い事業計画」「将来の成長性(売上増・雇用増)が見込める内容」が挙げられます。また、賃上げの実施や働きやすさ向上の取り組みも加点要素になります。
採択された後の報告義務はありますか?
はい、事業実施中および完了後には、進捗状況や経費の使途などに関する定期報告が義務付けられています。また、事業終了後も一定期間のフォローアップ調査に協力する必要があります。
まとめ

いかがでしたか?
本記事では、中小企業新事業進出補助金の概要から公募要件、補助額、スケジュール、そして申請時の注意点について解説してきました。特に「製品等の新規性」「市場の新規性」「新事業売上高」の3つの要件は、応募段階から明確に計画しないと採択が難しくなるため、公募要領をしっかり読み込み、経営戦略と照らし合わせながら、合理的かつ説得力のある事業計画を策定することが大切です。
要件が厳しく、補助金としてのハードルは高いですが、本補助金をうまく活用することができれば、今後の厳しい市場環境下における新たな事業領域へのチャレンジを後押ししてくれるでしょう。
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本記事が中小企業新事業進出補助金の理解を深めるうえでお役に立てますと幸いです。
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