運送業の節税対策

【シリーズ:法人の節税】運送業の節税対策を徹底解説!

日本の物流を支える「運送業」。

近年、オンラインショッピングの利用者が急増し、フードデリバリーなど新たなビジネスも次々と登場したことから、物流サービスへのニーズはますます高まっています。

その一方で、運送業は多くの課題に直面しています。燃料費の高騰に加え、2024年問題、さらには、ドライバー不足や高齢化も深刻です。このように、運送業を取り巻く経営環境は、一層厳しさを増しています。

本記事では、運送業の経営を安定させ、さらなる成長へと繋げるために「運送業に特化した具体的な節税方法」を紹介します。

税制改正が頻繁におこなわれる自動車関連の税制度を中心に解説しますので、ぜひ経営にお役立てください。なお、本記事は「運送業」に特化して解説しています。

法人全般に共通する税金対策については「【シリーズ:法人の節税】法人全般の税金対策を徹底解説!」をご覧ください。

 

 

【運送業】節税対策の重要性

節税対策の重要性

運送業では、一般の法人とは異なり、車両の維持費、燃料費、保険料などが経費のうち大きな割合を占めるため、適切に対処することが収益性向上の鍵となります。


運送業における税制の基礎知識

運送業の税制は複雑で、事業形態や規模、車両の種類などによって適用される税金や特例が異なります。ここでは、基礎知識として、特に運送業と関連の深い税金について解説します。

運送業の税金の基礎知識

 

運送業で経費になるものは?

運送業では一般的な経費に加えて、燃料費、車両維持費、人件費、高速道路料金、駐車場代などが発生します。これらを適切に計上し、税負担を軽減しましょう。

なお、車両維持費に含まれる「車検費用」については、常日頃からメンテナンスをおこない、費用を削減することをおすすめします。

運送業にとって、車両の安全は何より大切です。メンテナンスを怠ると安全が脅かされるだけでなく、車検時に多くの費用がかかることがあります。定期的なメンテナンスで車検時の支出を減らすことで、トータルの車両維持費の削減につながるのです。

なお、年度替わりの3〜4月やお盆、年末などの整備工場の繁忙期を避けると、車検の割引が受けられることもあるでしょう。

また、想定外の利益が発生した年度に車両の一斉点検をおこなうと、節税と同時に将来の大規模修繕の対策が可能です。

運送業における経費計上の注意点

運送業には特有の経費がありますが、なかでも「外注費」と「軽油引取税」の取り扱いについては注意が必要です。


外注費

運送業では、ドライバーと業務委託契約をすることがありますね。このドライバーに支払う費用は「外注費」となるため、売上の消費税から外注費の消費税を差し引くことが可能です。

外注費の判定については、いくつかの要件がある中で総合的に判断されます。「給与」とみなされた場合には、消費税の追加納付や源泉徴収義務違反などの税負担が生じる可能性があるので注意しましょう。

なかでも、重要な判断要素はこちらです。

出典:国税庁「源泉所得税における給与等の課税の取扱い」を加工して作成

なお、消費税の詳細については「経営者が押さえておきたい「消費税」の基礎知識!計算方法や注意点をわかりやすく解説」で詳しく説明しています。あわせてご覧ください。


軽油引取税

軽油税は、軽油の使用・販売に対して課される地方税の一種です。総務省「地方税制度|軽油引取税」によると、税率は軽油1リットルあたり32.1円となっています。

軽油の購入代金は「本体価格」「石油石炭税」「軽油引取税」で構成されており、その内の「本体価格 + 石油石炭税」に対してのみ消費税が課せられます。

軽油引取税はそもそも消費税が課されていないため、売上の消費税から差し引くことができません。そのため、誤って課税仕入として処理をすると、税務調査で指摘をうけるので注意が必要です。

例として、小売単価155.3円の軽油を100リットル購入した場合の仕訳をみてみましょう。なお、石油石炭税は1リットルあたり2.8円で計算しています。

※ ()内は適用に記載

なお、勘定科目は「燃料費」のほか「車両費」「旅費交通費」など、自社の業態にあわせて選択してください。

 

事業用自動車の税制優遇措置

事業用自動車の購入や維持には、多額の費用がかかります。しかし、環境性能に優れた車両を選んだり、特定の条件を満たしたりすることで、さまざまな税制優遇措置を受けられます。これらの制度を賢く活用し、税負担の軽減を図りましょう。

エコカー減税

エコカー減税は、環境性能の高い自動車の普及を促進するための制度で、対象となる自動車を取得した際、自動車重量税が減免、もしくは、免除されます。

対象となる車両や減免額は、購入時期や車両の種類、車両の環境性能によって変わるため、最新の情報を確認しましょう。

出典:国土交通省「◎エコカー減税の概要

 

グリーン化特例

グリーン化特例は、環境負荷の低減に資する設備投資を促進するための税制優遇措置です。一定の環境性能を満たす自動車の取得の際に、自動車税の減税を受けることができます。

出典:国土交通省「自動車税のグリーン化特例の概要

 

環境性機能割

環境性能割は、自動車取得税の廃止に伴い導入された新たな税負担です。自動車の環境性能に応じて税額が設定され、環境負荷の高い自動車ほど高い税額が課せられます。

出典:国土交通省「環境性能割の概要

 

中小企業投資促進税制

中小企業投資促進税制は、中小企業者等が生産性向上などにつながる設備投資をした際、税金の一部を減らすことができる制度です。これにより、企業の設備投資を後押しし、成長を促進することを目的としています。

なお、運送業の場合には車両総重量が3.5トン以上の車両購入などが対象となり、小型自動車は対象となりません。

中小企業投資促進税制の詳細は、以下のとおりです。

対象中小企業が新たに取得した設備や機械
認定要件認定の必要はなし。一定の条件を満たす設備投資が対象
特別償却通常の償却に加えて30%の償却が認められる
税額控除特別償却をしない場合は税額控除率7%
対象経費貨物自動車(車両総重量3.5トン以上)
詳しくは、中小企業庁ホームページ「中小企業投資促進税制」をご覧ください。

 

 

軽貨物車両の活用による税負担の軽減 

コロナ禍やフードデリバリーサービスなどによる宅配需要の増加により、宅配事業への参入を検討する企業も多いでしょう。

宅配業務では、軽貨物車両の利用により税負担を軽減できます。軽貨物車両特有の税制優遇措置がありますので、活用しましょう。

登録免許税の免除

貨物利用運送事業の登録・許認可を受ける際に課される登録免許税ですが、軽貨物車両で事業用である「営業ナンバー(黒ナンバー)」を取得した場合、登録免許税が免除されます。

登録免許税の免除

自家用軽自動車の自動車税は新規登録時10,800円にくらべ、事業用の軽貨物車両は新規登録時3,800円と税額が軽減されています。

出典:総務省「地方税制度|平成28年度から軽自動車税の税率が変わります

 

 

今後の運送業の税制動向

前述した税制改正に加え、今後導入が検討されている新たな制度にも注意が必要です。これらの制度は、具体的な内容が確定していないものもありますが、今後大きな影響を及ぼす可能性があるため、動向を注視し早期に対策を立てましょう。

走行距離課税

道路の維持管理費用を、走行距離に応じて負担させる制度です。環境負荷への配慮も考慮し、燃費の悪い車両への課税を重くすることも考えられます。

排出量取引制度

企業間で、温室効果ガスの排出枠を取引することを可能にする制度です。運送業でも、排出削減目標の達成に向け、この制度の導入が検討されています。

車体課税

現在、環境性機能割として課税されている車体課税ですが、令和6年12月20日付で提出された与党税制改正大網において、国税と地方税の税制中立のもと令和8年の税制改正に向けて見直しが決まりました。

 

まとめ|節税で運送業の未来を見据えた戦略を立てよう!

オンラインショッピングの増加やデリバリーサービスの台頭により、ますます物流ニーズが高まっています。

一方で、運送業は燃料費の高騰や人手不足といった深刻な課題に直面しています。この厳しい環境下で持続的な成長を実現するためには、運送業に特化した節税戦略が不可欠です。

節税対策は、単に税負担を減らすためのものではありません。節税により確保した資金を、企業の経営基盤強化や将来の成長に向けた投資に活用できます。

できることから一つずつ実践し、未来を見据えた確かな一歩を踏み出しましょう。

 

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