2022年の電子帳簿保存法の改正に伴い、帳簿書類のペーパーレス化の話を耳にする機会が増えてきました。
しかし、ペーパーレス化と一口に言っても、具体的にどんなことをするのかよく分からないと悩まれる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、電子帳簿保存法にまつわるペーパーレス化のこと、そしてペーパーレス化の具体的な方法についてわかりやすく解説をしていきます。
電子帳簿保存法について
電子帳簿保存法とは?
電子帳簿保存法の概要
電子帳簿保存法とは、帳簿書類や証拠書類を紙のかわりに電子データで保存することを容認、または義務付ける法律で、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引データ保存」の3つから構成されています。
出典:国税庁「教えて!!令和3年度改正電子帳簿保存法」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0022001-105.pdf
電子帳簿等保存法の各保存制度は、それぞれ以下の書類のペーパーレス化に関連しています。
電子帳簿保存法については、「電子帳簿保存法とは?概要や令和5年度税制改正のポイントを詳しく解説」で詳しく解説しているので、よろしければご参照ください。
2022年から具体的に何が変わった?
2022年の電子帳簿保存法の改正により、上記の3つの保存について、求められる要件が緩和されました。
緩和された要件として、具体的には次のようなものがあります。
これにより、電子化に対応する事業者の負担が大きく減ったことで、ペーパーレス化のハードルが下がりました。
導入しない場合はどうなる?
上記3つのうち、電子帳簿等保存・スキャナ保存の導入は任意ですが、電子取引データ保存については原則として事業者全員が対応しなければなりません。
もし電子取引データ保存に対応しない場合、法人税や所得税の青色申告の承認の取消の対象となることもありえるため注意が必要です。
なお、猶予措置として、電子取引データ保存に対応できなかったことについて、税務署⻑が「相当の理由」があると認める場合は、電子取引データを単に保存しておくだけでよいとされています。
「相当の理由」の内容は電子取引システムや社内のワークフローの整備が済んでいない場合等、広い範囲で認められ、税務署長に対する事前申請等は必要ありません。
ただし、この猶予措置は、税務調査等の際に、電子取引データのダウンロードを求められたり、その電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出を求められた場合にはそれに応じることが条件となっています。
ペーパーレス化によるメリット
このように、ペーパーレス化は法律により導入が求められているものです。そうはいっても、ペーパレス化には時間や費用面でコストがかかるため、なかなか導入に踏み切れない場合もあるでしょう。
一方で、ペーパーレス化には多くのメリットがあるのも事実です。そのため、制度をうまく利用してペーパーレス化をすすめるのも一つの手といえるでしょう。
ここでは、ペーパーレス化のメリットとして、次の4点を紹介します。
コストの削減ができる
帳簿書類や証拠書類は、原則的に7年間の保存義務があります。
これらの書類は1年分でもかなりの量となるため、7年分の書類を紙で保存するとなると、保管のための「空間的なコスト」や管理・整理するための「人的コスト」、ファイルや印刷代等の「金銭的コスト」がかかります。
そのため、ペーパーレス化を推進することで、これらのコストの削減が見込めます。
業務効率化、働き方改革につながる
過去の取引や契約の内容を確認するとき、紙の書類から必要な情報を探しだすのは、時間と労力がかかります。
ペーパーレス化をおこなうことにより、確認したい資料をすぐに見つけられるようになるため、従業員の業務効率化や働き方改革につなげることも可能です。
テレワークを推進することができる
「必要な書類が会社に保管されている」場合や、「紙で受け取った書類を上司や経理に提出する」といったケースでは、会社以外の場所で仕事をするのは難しいでしょう。
一方で、ペーパーレスの環境を整備しておけば、会社以外からでも書類が確認でき、また紙で受け取った書類も電子データで提出できるため、テレワークを推進することが可能です。
情報セキュリティを強化できる
書類を紙で保管している場合、管理が悪いと書類をなくしてしまったり、盗難に遭うリスクがあります。また、火災や水害で書類を紛失する可能性も考えられます。
しかし、ペーパーレス化で書類をデータ保存し、アクセス制限やパスワードを設けることで、情報セキュリティを高めることが可能です。
さらに、クラウドに保存しておけば、災害があってもデータを守ることができます。
ペーパーレス化の具体的な方法と注意点
ペーパーレス化の方法
ここでは、電子帳簿保存法に基づくペーパーレス化の方法について紹介をします。
電子帳簿保存法では「改ざんできないこと(真実性の確保)」「誰もが目で見て確認できること(可視性の確保)」が求められており、書類の改ざんを防ぐ仕組みと、書類を明瞭に表示できるようにする必要があります。
事務処理規程の策定・管理者の選任
電子帳簿等保存、スキャナ保存によるペーパーレス化を導入する場合は、まず、事務処理規程を策定し、管理者を選任します。
これは、あらかじめペーパーレス化の社内手順を設けて、規程に沿った処理をおこなう責任者を置くことで、責任の所在を明らかにし、真実性を確保するためのものです。
事務処理規程は国税庁がサンプルを公開しているので、よろしければご参照ください。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
出典 国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」
基準を満たすスペックのスキャナ、モニターの用意
スキャナ保存では、一定水準以上の解像度(200dpi以上)、かつ、カラー画像(赤・緑・青それぞれ 256階調以上)での読み取りができるスキャナが必要です。
条件に合うならスマートフォンやデジタルカメラ等でも問題ありません。
なお、見積書や注文書など、資金や物の流れに直結しない書類は白黒での読み取りも認められています。
また、スキャナ保存では14インチ以上のカラーディスプレイで、4ポイント文字の認識等のできるモニターも用意しましょう。
タイムスタンプの付与
ペーパーレス化した書類が改ざんされていないかを明らかにするため、電子データにはタイムスタンプ(ある時刻にその電子データが存在していたことと、それ以降改ざんされていないことを証明する技術)を付与します。
なお、スキャナ保存ではタイムスタンプの代わりに、入力期間内に入力したことが確認できるSaaS型クラウドサービスのような仕組みの導入も認められています。
一方、電子取引データ保存では、改ざん防⽌のための事務処理規程を策定して、規程に沿った運用を守ることでタイムスタンプは不要となります。
改ざん防⽌のための事務処理規程も、国税庁がサンプルを公開しているので上記URLをご参照ください。
検索機能の確保
保存した電子データは「取引年月日」「取引金額」「取引先」で検索できるようにする必要があります。
専用のシステムを用意しなくても、たとえば、受け取った電子データのファイル名を「年月日_取引先名_金額」で保存したり、ファイル名は「①」「②」等の数字で保存し、詳細はエクセル等により管理したりすれば十分です。
出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問43」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021006-031_03.pdf
なお、スキャナ保存や電子帳簿等保存では、一定の場合には「範囲検索」や「複数検索」できることが要求されています。
また、このほかにも、スキャナ保存にはシステムの概要書等の保存等、細かな要件があります。
ペーパレス化の注意点
保存するファイルやフォルダの名前と場所を統一させる
書類を電子データで管理したとき、その都度、任意の場所に電子データを保存してしまうと、確認したい資料を見つけるのに時間がかかってしまいます。
そのため、取引先や内容ごとに、電子データを保存するファイルやフォルダの名前と場所を統一することが重要です。
取引先が電子取引に対応しているか確認する
取引先によっては、電子データではなく、紙の書類を求められることがあるかもしれません。
そのため、急に電子化するのではなく、事前に取引先にも通知したうえで、紙取引を希望する取引先には、今後どう対応するか話し合っておく必要があります。
システム障害やデータの消失のリスクに備えておく
システム障害や予期せぬエラーで、保存した電子データが消えてしまうことも想定されます。
そのため、あらかじめバックアップを用意しておいたり、クラウドに保存しておくといった体制を構築しておくことは、万一の場合の備えになるでしょう。
まとめ
この記事では、電子帳簿保存法にまつわるペーパーレス化とその方法について解説をしました。
ペーパーレス化には、大きなメリットがあります。
電子帳簿保存法を機に、電子取引データ保存だけでなく、電子帳簿等保存やスキャナ保存も導入してペーパーレス化を大きく推進することも、今後の一つの選択肢としてぜひ考えてみてはいかがでしょうか。
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