事業を営む法人にとって、税金の負担は決して軽くありません。「少しでも税金を安くできないか」と悩む経営者の方も多いでしょう。
法人税は、売上から経費を引いた利益の額に課税されますが、節税のための無意味な経費は健全な経営につながらないため、正しい知識が不可欠です。
この記事では、どの業種の法人も利用可能で、効果的な節税テクニックをわかりやすく解説します。
会社経営にとって有益な節税対策を実施し、事業のための資金を確保しましょう。
法人の節税対策とは?
法人の節税とは、税金を合法的に減らすことで、重要な経営戦略といえます。節税対策にはさまざまな手法がありますが、法律に基づいて正しく行うことが大切です。
まずは、法人税の仕組みを簡単に理解しておきましょう。法人税は、売上から経費を引いた後に残る所得(利益)に対して課せられます。
図の所得(利益)30万円に対して税金が課せられるので、所得が少なければ法人税も少なくなります。
所得を少なくすることが節税の基本的な考え方になるため、経費を多く計上することで税金を抑えることが可能です。
しかし、過度な節税や不適切な経費の計上は加算税が課せられ、「脱税」とみなされた場合には刑事罰が科せられることもあります。
そのため、安易に所得を減らそうとするのではなく、適切で合法的な節税対策をおこなうことが重要です。
これにより、長期的な利益アップや安定した経営が可能となります。
法人の節税テクニック「8選」
合法な法人の節税テクニックを、具体例と共に解説します。節税のテクニックは、業種や事業規模等にとってさまざまな手法がありますが、ここでは、法人全般で使えて特に効果の得やすい「8選」を紹介します。
役員報酬を増やす
役員報酬は、原則として、経費で落とすこと(損金算入)はできません。しかし「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」※1 の場合は、損金算入が認められています。
※1 役員給与の損金算入の詳細は、国税庁のホームページを参照
損金算入が認められた法人は、役員報酬を増額した分だけ損金を増やすことができるため、節税が可能です。
役員報酬の増額は、事業年度の開始から3ヵ月以内に、総会議事録・取締役会議事録によって定める必要があります。議事録は税務調査の際に確認されるので、保存しておきましょう。
なお、役員報酬があまりに高額の場合は、税務調査で認められない可能性があるので、報酬額の決定は慎重に検討する必要があります。
また、役員報酬を増やすと、法人の経費が増えて節税ができる一方で、役員個人は所得が増え、所得税・住民税・社会保険料が増えるので、バランスをとることが重要です。
決算賞与を支給する
決算賞与とは、決算期に各従業員の業績に対して支給する賞与のことで、期中の経費として計上できます。
支給を受けた従業員のモチベーション向上や、社内の結束を強める効果が期待されると同時に、節税もできるテクニックです。
一方で、法人から現金が減りキャッシュフローが悪くなるので、無理のない範囲でおこなうことが大切です。
決算賞与を損金算入するための条件と注意点を、表で確認しましょう。
損金算入の条件 | 注意点 |
支給する全ての従業員に同時期に通知をする | 税務調査の際に、通知をおこなったことを証明するため、日付入りの書面が望ましい |
期中に損金計上する | 期中に支給ができなかった場合でも「未払金」として損金計上をする |
決算日の翌日から1カ月以内に支給する | 税務調査に備えて、現金支給ではなく振込で支給することが望ましい 通知内容を同額の支給でない場合は、損金として認められない |
繰越欠損金を利用する
繰越欠損金とは、過去の赤字金額を当期の黒字から差し引くことで、当期の利益を減少させて節税するテクニックです。
ただし、繰越欠損金を利用するには、赤字が発生した事業年度の開始日までに、税務署へ「青色申告の承認申請」を届け出る必要があります。
以下は、繰越欠損金を利用した場合と利用しない場合で、法人税額がどう変わるかシミュレーションをしたものです。繰越欠損金を利用することで、トータルで「6万円」の法人税を節税できています。
<繰越欠損金を利用した場合>
課税 所得 | 前期 欠損金 | 差引き後所得 | 翌期 繰越額 | 法人 税率 | 法人税 | |
1年目 | ▲30 | 0 | ▲30 | ▲30 | 15% | 0 |
2年目 | ▲10 | ▲30 | ▲40 | ▲10 | 15% | 0 |
3年目 | 20 | ▲40 | ▲20 | ▲20 | 15% | 0 |
4年目 | 70 | ▲20 | 50 | 0 | 15% | 7.5 |
(単位:万円)
<繰越欠損金を利用しなかった場合>
課税 所得 | 前期 欠損金 | 差引き後所得 | 翌期 繰越額 | 法人 税率 | 法人税 | |
1年目 | ▲30 | 0 | ▲30 | 0 | 15% | 0 |
2年目 | ▲10 | 0 | ▲10 | 0 | 15% | 0 |
3年目 | 20 | 0 | 20 | 0 | 15% | 3 |
4年目 | 70 | 0 | 70 | 0 | 15% | 10.5 |
(単位:万円)
人材に投資する
従業員の賃上げをおこなうことで、法人税の節税につながります。単純に損金が増えて節税になるうえに、「賃上げ促進税制」を利用できるからです。
賃上げ促進税制とは、従業員の給与を引き上げた場合に、中小企業では、全従業員の賃上げ総額に対して最大45%の税額控除が受けられる制度です。
賃上げは法人の資金繰りに負担をかけますが、賃上げと同時に節税が実現すれば実質的な負担が抑えられます。従業員の収入増加も実現できるため、双方にとってメリットのある制度です。
詳細は「令和6年度税制改正の「賃上げ促進税制」!中小企業に焦点をあてて解説!」で詳しく説明していますので、あわせてご確認ください。
福利厚生を手厚くする
法人が従業員に対して福利厚生を提供すると、その費用を経費として損金計上することで節税できます。福利厚生が充実することで、従業員の満足度も高まるでしょう。
また、福利厚生費は、一定の条件のもと実施すれば非課税所得となり、従業員の所得税の負担軽減にもなります。
以下は、具体的な福利厚生の例と非課税所得の条件になるので、参考にしてください。
福利厚生の内容 | 非課税所得となる条件 |
通勤手当 | ・公共交通機関利用の場合は1カ月15万円まで ・マイカー通勤の場合は片道2km以上から(距離に応じて上限がある) |
社宅 | ・法人の所有物件又は借り上げ賃貸の場合に「賃貸料相当額の50%※2 以上」を従業員が負担すること ※2 賃貸料相当額の50%の計算方法は国税庁のホームページを参照 |
健康診断 | ・役員を含む全従業員を対象とすること ・対象者の年齢制限は常識の範囲内であること |
社員旅行 | ・全従業員を対象として実施し50%以上が参加していること ・4泊5日以内の旅行であること(海外の場合は滞在日数) ・欠席した従業員に現金を支給しないこと |
社内レクリエーション | ・全従業員を対象とし欠席した従業員に現金を支給しないこと |
スポーツクラブ | ・法人で契約をすること ・全従業員が利用可能であること ・利用規定を定め、誰がいつ利用したのか管理すること |
慶弔見舞金 | ・全従業員が対象であること ・支払いの基準が公平であること ・社会通念上、一般的な金額であること |
勤続表彰 | ・現金、給与、換金性の高いものではないこと ・勤続年数がおおよそ10年以上である従業員を対象とすること ・同じ人が表彰される場合、前回の表彰からおおよそ5年以上経過していること |
食事補助 | ・現物支給であること ・従業員が半分以上の金額を負担してること ・1人あたりの会社負担額の上限は月に3,500円以下 ・夜食のように現物支給が厳しい場合は一食300円が上限 |
中小企業退職金共済に加入する
中小企業退職金共済に加入し、従業員の将来の退職金の積立として掛金を支払う場合、支払った掛金は全額損金算入が可能です。法人税の節税効果があるうえに、従業員の退職金も確保できます。
ただし、加入後1年以内に退職した場合には退職金は支給されません。また、役員は加入できません。
制度の詳細は、独立行政法人 勤労者退職金共済機構のホームページをご覧ください。
企業型確定拠出年金(401K)を導入する
企業型確定拠出年金は、法人が従業員のために退職後の年金を積み立てるもので、掛金は全額損金になります。老齢給付金として受けとる場合には、公的年金等控除が受けられるので、従業員のメリットも大きい制度です。
従業員が自分で運用するため、投資運用に関して学ぶ機会を提供することで、従業員の満足度も向上するでしょう。
また、企業型確定拠出年金は中小企業退職金共済と違い、役員も加入が可能です。
資本金額を見直しする
法人の資本金額を見直すことで、法人税率の軽減といった節税効果が期待できます。
資本金が1億円以下の法人は、法人税率の軽減措置が受けられます。具体的には、年800万円以下の所得に対して軽減税率が適用され、通常の法人税率よりも低い税率が適用されます。
中小企業向けの税制の詳細については、財務省のホームページを参照してください。
なお、資本金を過度に引き下げると信用力が低下するリスクもあるため、節税効果だけでなく、経営全体のバランスを考慮した資本金の見直しが重要です。
効果的な節税対策で重要な「3要素」
節税対策で重要な、「キャッシュフローの最適化」「法令遵守」「将来性の考慮」の3つの要素について解説します。
キャッシュフローを最適化する
節税しながらも、キャッシュフローを最適化することが重要です。
税負担を軽減するだけではなく、適切なタイミングで支出をコントロールすることで、資金不足による経営リスクを防げます。
たとえば、設備投資で経費を増やす節税対策がありますが、資金にゆとりのない時期の無理な設備投資は、かえってしゃっしゅフローを悪します。
確実に資金を確保したタイミングで、収益増加も見込める設備投資をおこなうことで、節税とキャッシュフロー改善を同時に実現できるでしょう。
法令を遵守しリスクを管理する
節税対策は、必ず法令に基づいておこなう必要があります。法令違反の場合は、罰則や追徴課税のリスクを高め、企業の信頼を損ないかねません。
税理士による適切な助言を受けることで、法令を遵守しつつリスク管理を徹底し、健全な経営を維持できます。
将来性を考慮した投資をする
節税効果を追求するだけでなく、将来の成長を見据えた投資が重要です。
たとえば、設備投資や人材育成、IT導入などは、長期的な事業拡大に寄与し、結果的に節税につながることがあります。
短期的な節税効果にとらわれず、将来の利益や競争力を見据えた投資が持続的な経営の鍵といえるでしょう。
まとめ| 確かな節税対策で資金を確保しよう!
この記事では、法人全般の効果的な節税効果について解説しました。
法人の節税対策は、短期的な税負担の軽減だけでなく、長期的な経営の安定に直結します。
効果的な節税を実現するためには、法令の遵守とキャッシュフローの最適化、そして、将来の成長を見据えた投資をおこなうことが大切です。
節税対策は単なるコスト削減ではなく、企業の資金を守り、持続的な成長を支える重要な戦略です。確かな節税対策で資金を確保し、より健全な経営を目指しましょう。
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