1. 減価償却とは
減価償却とは、固定資産を購入した際に、その年に取得費を全額経費とするのではなく、定められた年数ごとに分割して経費にする処理方法です。
購入した資産のほとんどは、長期間にわたって使用するものであり、時間経過とともに価値が下がっていきます。減価償却では、この固定資産の経費を、毎年一定額で分割します。もしも購入した年に一括で費用計上してしまうと、その年だけ赤字になる可能性があり、正確な利益が把握できないためという理由もありますし、購入した資産の効果が一定期間に渡って持続するから、という考え方にもよります。
なお、資産を何年で減価償却するのかは、国税庁が種類ごとに定めています。これを「法定耐用年数」と呼びます。
たとえば、仕事で使用するための高額なパソコン1台を500,000円で購入した場合。パソコンの耐用年数は「5年」のため、5年間にかけて毎年100,000円を減価償却費として経費に計上します。なお、期の中途で購入した場合には、購入した年度では月割計算をします。
1-1. 減価償却できる資産・できない資産
減価償却ではほとんどの資産が償却できますが、一部には償却できない資産もありますので注意しましょう。
○減価償却できる資産
・業務で使用している
・時間が経つと劣化する
・使用可能期間が1年以上で取得価額が10万円以上
・資本的支出(固定資産の使用可能期間が延びたり、機能が向上したり、価値が増加した部分)
減価償却可能な資産の具体例としては、建物・設備・備品・家畜・樹木などがあります。また、ソフトウェア・特許権・意匠権・商標権、などの形のないものも含まれます(無形固定資産)。
○減価償却できない資産
・時間経過で価値が減少しないもの(土地、借地権、美術品、骨董品、電話加入権など)
・建設中である資産
・稼働を休止している資産
減価償却できない資産には、基本的には「価値が変動しないもの」や「業務で使用中といえないもの」が該当します。
1-2. 減価償却で覚えておきたい用語
減価償却の処理を行う際には、以下4つの用語を理解しておくと良いでしょう。
○取得価額(取得原価)
減価償却対象の資産を取得した時点での価値、すなわち取得のために支払った費用を指します。
資産そのものの購入代金だけではなく、それに付随した費用も含まれます。たとえば、購入するための引取運賃・運送保険料・関税・手数料などです。
○耐用年数(法定耐用年数)
減価償却対象の資産が、使用できる期間を予想した年数です。資産ごとに細かく決められており、国税庁のホームページ(https://www.keisan.nta.go.jp/h29yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensuhyo.html)で確認が可能です。
○残存価額(残存簿価・備忘価額)
減価償却をした資産が耐用年数を過ぎた後、帳簿上に残された資産価格を指します。
平成19年3月までは、取得価格の約10%が残存価額と定められていました。しかし平成19年4月以降より、残存価額は1円まで償却が可能です。この1円を残すのは、減価償却をした資産を帳簿上に残しておくためです。その資産が廃棄または売却されると帳簿上からもなくなります。
○帳簿価額(未償却残高)
資産の取得価額から今までの減価償却費(減価償却累計額)を差し引いた額です。この金額より、あとどのくらい減価償却費として計上される金額が残っているのかが把握できます。
2. 減価償却の仕訳方法
減価償却の主な仕訳方法には、「直接法」と「間接法」の2通りがあります。この2つは、主に貸借対照表で表示される方式の違いです。
それぞれについて、具体的に見ていきましょう。
2-1. 直接法
直接法とは、固定資産から減価償却費を直接差し引く方法です。
例:期首に購入した取得価額が500,000円で、耐用年数が5年の固定資産(備品)を減価償却する場合
減価償却費は毎年100,000円となる。(定額法)
減価償却費 100,000円 / 備品 100,000円
直接法の特徴は、固定資産の帳簿価額がひと目で分かる点です。上記の例の場合、備品から直接100,000円を差し引くため、償却できる残りの金額は400,000円となります。貸借対照表にも400,000円と表示されるため、あとどのくらいの価値があるのかがすぐに分かります。なお、無形固定資産は、常にこの直接法となります。
多くの中小企業では、この直接法を採用しています。処理としても単純で簡単なため、経理に自信のない方にもおすすめです。
2-2. 間接法
間接法では直接法とは違い、「減価償却累計額」という勘定科目を用いて減価償却を行います。
例:期首に購入した取得価額が500,000円で、耐用年数が5年の固定資産(備品)を減価償却する場合
減価償却費は毎年100,000円となる。(定額法)
減価償却費 100,000円 / 減価償却累計額 100,000円
減価償却累計額という科目を使用することで、固定資産の金額が減りません。そのため、元の資産の価額や、減価償却した金額の累計額も、すぐに把握できるのが特徴です。
固定資産の元の資産額を残しておきたい場合に、間接法が選択されることが多いです。
3. 減価償却の計算方法
減価償却の計算方法には、「定額法」と「定率法」の2通りがあります。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
3-1. 定額法
定額法とは、資産購入の年から耐用年数の最終年まで、毎年一定の金額で資産を償却する方法です。
減価償却費は「資産の購入額÷耐用年数」で求められ、とても簡単に処理できます。そして、耐用年数の最後の年まで金額が変動しないため、その先の経費計画が立てやすいのもメリットです。
なお、建物・付随施設・無形固定資産は、この定額法しか選択できません。
○定額法のメリット
・計算が簡単
・償却額が把握しやすいため、将来の計画を立てやすい
・初年度の負担が少ない
3-2. 定率法
定率法とは、最初の年だけ償却費の負担が大きく、徐々にその額が減少していく方法です。償却費は、以下の計算式で導き出されます。
定率法の減価償却費 = 未償却の資産残高 × 定率法の償却率
たとえば耐用年数5年・500万円の資産を定率法で処理する場合、定率法での償却率は「0.4」と定められているため、最初の年は、
500万円 × 0.4 = 200万円
となります。
2年目は、購入額から上記200万円を差し引いて償却率を掛けるため、
(500万円 ー 200万円) × 0.4 = 120万円
となります。
このように、経過年ごとに減価償却費を計算して処理するのが特徴です。定額法と比較すれば処理が難しくなるかもしれません。
法人の場合、建物や構築物以外は、原則的に定率法が採用されます。一方、個人の場合は原則的に定額法です。ただし、税務署へ事前に届け出を出せば、変更が可能です。
○定率法のメリット
・購入初年度からより多くの減価償却費が計上できる
・早く資産を償却できるため、投資した資金の回収が早くできる
4. 減価償却時に注意したいポイント
減価償却の処理を行う際には、「中小企業の特例がある」ことや、「中古の耐用年数に注意する」ことを覚えておきましょう。
4-1. 中小企業の特例がある
青色申告を行っている中小企業の方でぜひ覚えておきたいのが、「少額減価償却資産の特例」です。これは、「減価償却資産の購入金額が30万円未満なら、その年に全て必要経費にできますよ」というものです。
たとえば25万円のパソコンを購入したら、その年に25万円がすべて経費として計上できます。取得した年の経費が増えるため、その年の節税がしやすくなるのがメリットです。
ただし要件として、
・青色申告を行っている、
・資本金または出資金の額が1億円以下
・常時職員が500人以下
に該当する必要がありますので、注意しましょう。
また、事業年度で合わせて300万円まで、という上限もあります。
4-2. 中古の耐用年数に注意する
中古の固定資産を減価償却する際には、耐用年数に注意しましょう。
中古資産の耐用年数を計算する際には、購入した時点で「あと何年使えるか」を見積もります。とはいえ、それは簡単に見積もれるわけではありませんよね。そこで、「簡便法」という方法を用いて、耐用年数を計算します。
簡便法では、以下のように計算します。
○耐用年数をすべて経過している資産
新品の耐用年数 × 20%
○耐用年数をすべて経過していない資産
(耐用年数 ー 中古で購入するまでに経過した期間) + (中古車購入までの経過期間 × 20%)
たとえば、中古車を購入したケースを考えてみましょう。
自動車の耐用年数は「6年」です。もしも10年落ちの自動車を購入した場合、耐用年数の6年を経過しているため、6年の20%、つまり1.2年となります。しかし2年未満は「2年」に統一する決まりがあるため、耐用年数は2年です。
一方で3年落ちの自動車を購入した場合は、計算式は以下のとおりです。
(6年 ー 3年) + (3年 × 20%) = 3.6年(切り捨てで3年)
つまり、耐用年数は3年となります。
ただし、中古品の購入価格が、その資産の新品価格の50%を超えると、耐用年数がそのまま採用されます。
5. まとめ
減価償却は、購入資産を決められた年数ごとに分割して経費計上する処理方法です。上記で紹介したように、基本的な知識や処理方法は多岐にわたります。きっちりと理解して、減価償却処理を行うようにしましょう。
また、減価償却費の計算は固定資産管理ソフトなどを使用すれば簡単に計算ができますが、会計ソフトには付属していない場合も多く、別途購入する必要がある可能性もあります。
もしも、
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