新たに法人を設立したときや、従来使用していた会計ソフトの選定や見直しをするとき、「クラウド会計ソフト」を選択肢に入れる事業者が多いのではないでしょうか。
インストール型のソフトとクラウド会計ソフトでは、さまざまな違いや特徴的な機能があるため、どれを選べばよいか迷うかもしれません。
この記事では、クラウド会計ソフトの比較のポイントや、各社のメリット・デメリットについて詳しく解説します。代表的なクラウド会計ソフトの料金についても触れますので、ぜひ、会計ソフトを選ぶ際の判断材料としてご活用ください。
クラウド会計とは
近年は、企業においてもSaaSやサブスクリプションといった言葉をよく耳にするようになりました。
従来、ソフトウェアというとPCにインストールして使用するものが一般的でしたが、インターネットの発達やPC自体の性能の向上などによって、PCにソフトウェアをインストールせず、オンラインで利用するものが増えています。
会計ソフトにおいても例外ではなく、クラウド会計とよばれるサービスが台頭してきました。
インターネット上で会計処理をおこなうシステム
クラウド会計とは、PCに会計用のソフトウェアをインストールせず、オンラインのみで処理が完結するものを指します。
利用者がベンダーの提供する環境にインターネットを介してログインし、そこですべての会計処理をおこなったり、データを閲覧したりすることができるシステムです。
ブラウザからログインして使用
クラウド会計ソフトを利用するためにはブラウザがあればよく、ブラウザからIDとパスワードなどを利用してログインし、使用します。
PCだけではなく、スマホからもログインしてデータの確認などをおこなうことが可能です。
クラウド会計でできることは?
クラウド会計ソフトは、従来のインストール型会計ソフトと同様に、仕訳の入力や元帳の閲覧など会計ソフトとしての基本的な機能を備えています。
加えて、試算表や推移表、キャッシュフロー表や消費税の集計、決算書作成など、決算作業に必要な機能を備えているものがほとんどでしょう。
また、クラウド会計ならではの機能として、ネットバンクやクレジットカードのオンライン照会サービスと連動し、自動的に明細をダウンロードしたり、仕訳を自動的に起票したりするといった機能を備えているものもあります。
出典:ITプラットフォーム「クラウドの会計サービスを活用しよう」
代表的なクラウド会計ソフト
日本において代表的なクラウド会計ソフトは、「freee」「マネーフォワードクラウド(以下、マネーフォワード)」「弥生会計オンライン(以下、弥生会計)」の3つです。
これらの会計ソフトは、さまざまなネットサービスとの連携にも力を入れています。
クラウド会計ソフトの比較ポイント
クラウド会計ソフトは、インストール型会計ソフトと比べて、オンラインのメリットを活かした機能が充実していることが特徴です。
代表的なクラウド会計ソフトを、機能や料金などの面で比較しました。
機能
仕訳入力・帳票出力などの「会計ソフトとしての基本的な機能」は、いずれのソフトにも備わっています。
さらに、クラウド会計ソフトでは、以下のような機能が備わっているものが多いでしょう。
なお、freeeは「会計知識が少ない人でも扱える」ことが特徴ですが、「補助科目」がないため、従来の会計ソフトに慣れた人ほど使いにくいという印象をもつようです。
その点では、弥生会計はインストール型会計ソフトも古くからあるため、使いやすいと感じる方が多いでしょう。
一方で、外部連携などクラウド会計ソフトならではの機能は、freeeやマネーフォワードが充実しているため、これらの機能を重視する場合は、freeeやマネーフォワードを検討するとよいでしょう。
料金
法人向けの各ソフトの料金は、以下のとおりです。なお、下表は機能が類似しているプランで比較をしています。
(税込)
小規模企業向け | 小~中規模企業向け | 大規模企業向け | |
freee | ミニマム 年払:26,136円 月払:2,948円 | ベーシック 年払:52,536円 月払:5,808円 | プロフェッショナル 年払:525,360円 月払:52,536円 |
マネーフォワード | スモールビジネス 年払:39,336円 月払:3,278円 | ビジネス 年払:65,736円 月払:5,478円 | |
弥生会計 | セルフプラン 年払:28,600円 | ベーシックプラン 年払:38,720円 |
※ 2023/12/16現在
単純に金額だけを比較した場合、freeeが最もコストを抑えられます。
弥生会計は最初の1年間の利用料が無料であるため(2023/12/16現在)、初期費用を抑えることが可能です。
なお、税理士からの紹介であれば割引を受けられることがあるので、顧問税理士がいる場合は事前に相談するとよいでしょう。
サポート体制
いずれのクラウド会計ソフトにもサポート体制がありますが、メールやチャットが主体になっています。
電話でのサポートは常に混雑しているため、メール等での問い合わせがおすすめです。
また、弥生会計のセルフプランはサポートが利用できないため(2023/12/16現在)、注意が必要です。
メール | チャット | 電話 | |
freee | 〇 | 〇 | △(ベーシックのみ) |
マネーフォワード | 〇 | 〇 | × |
弥生会計(ベーシックプラン) | 〇 | 〇 | 〇 |
※ 2023/12/16現在
セキュリティ対策
いずれのクラウド会計ソフトも通信は暗号化されており、データを盗み見られる可能性は低いといえます。
また、会計データはすべてベンダーのデータセンターに保管されており、自社でサーバーを保管するよりも安全でしょう。
クラウド会計ソフトの需要の増加とともに、セキュリティも年々向上していますので、安心して導入することができます。
クラウド会計のメリット
クラウド会計ソフトには、インストール型会計ソフトにはない特徴的な機能があります。
以下のメリットを魅力的に感じる場合は、クラウド会計ソフトを前向きに検討するとよいでしょう。
利便性の向上
クラウド会計ソフトの最大のメリットの一つは、インターネット環境さえあればどこからでも操作ができる点です。
特にコロナ禍では、在宅勤務をする人が非常に多くなり、インストール型会計ソフトではそれに対応できないという事態が発生しました。
このような状況であっても、クラウド会計ソフトであれば在宅勤務に容易に対応することが可能です。
ソフトウェアアップデート自動化
インストール型の会計ソフトでは、最新の税制への対応や不具合対策など、ソフトウェアのアップデートをその都度おこなう必要があります。
アップデートの際は、基本的に、社員全員のソフトの使用を一度停止し、利用者自身で作業をおこなう必要があるため、作業効率が落ちたり時間に制約が生じたりすることがあります。
一方、クラウド会計ソフトは、サービス提供側がアップデートをおこなうため、利用者自身がソフトウェアをメンテナンスする必要がなく、常に最新の状態でソフトウェアを利用できます。
データの共有・連携
インストール型の会計ソフトは、基本的に社内からのみ閲覧・入力等が可能です。
そのため、税理士やアウトソーシング会社などに経理や税務業務を委託している場合、いったんデータのバックアップを取ってそのデータをオンラインで共有し、外部業者側の環境でバックアップデータを読み込むといった手間が発生します。
VPNを介してインストール型会計ソフトにアクセスするという手法も普及しつつありますが、クラウド会計においては、アカウントとインターネット環境さえ用意すればどこからでも同一の会計領域にアクセスすることができ、データの共有や連携が非常に容易です。
また、会計データだけではなく、銀行明細やクレジットカードなどのデータとの連携面でもクラウド会計ソフトは強みを発揮します。
最初にネットバンキングと連動させておき、さらに銀行明細の文字列と勘定科目を紐づけておけば、ほぼ自動で預金の仕訳が起票されるため、手間も省け、手入力によるミスも起こりにくくなります。
バックアップ体制の充実
インストール型の場合も大抵のソフトにバックアップ機能は付いていますが、基本的に利用者自身でバックアップを実施する必要があります。
一方、クラウド会計ソフトの場合は、サービス事業者によりますが、自動でバックアップデータを取ってくれるところが多く、かつ、高い頻度でおこなわれます。
そのため、操作ミスや自然災害など、不慮の事態でデータが消失してしまった場合も、クラウド会計であれば安心してソフトを利用できます。
クラウド会計のデメリット
ここまではクラウド会計の便利な機能について紹介しましたが、クラウド会計ソフトには以下のようなデメリットも存在します。
インターネット環境が必要
クラウド会計ソフトはオンラインで使用することが前提のため、必ずインターネット環境が必要です。
そのため、インターネット環境はなるべく安定した接続で、かつ高速な回線であることが望ましく、快適な操作性を求めるためには通信網の整備が必要となります。
セキュリティ対策に注意が必要
クラウド会計ソフトはインターネット環境を利用することから、セキュリティ面でもリスクが発生します。
セキュリティ対策ソフトを導入するなどの対策をしておかないと、外部からの侵入があった場合に企業の重要な会計情報を見られたり、データが盗まれたりする可能性があるため、対策を怠らないようにしましょう。
操作に慣れるまで時間がかかることがある
クラウド会計ソフトは、銀行明細やクレジットカード、また給与・経費精算のソフトなど、他の環境と連動していることが特徴です。
そのため、従来のインストール型の会計ソフトとは操作方法が異なることが多く、慣れるまでに時間がかかることがあります。
まとめ
クラウド会計ソフトは、業務の効率化や在宅勤務などの柔軟な働き方を実現できる可能性があるなど、多くのメリットがあります。
セキュリティ面でなどのリスクがないわけではありませんが、ベンダーも利用者の要望に応えるべくセキュリティや使用感の向上に務めており、クラウド会計ソフトも日々進歩しています。
クラウド型もインストール型もメリット・デメリットがあるため、それぞれの機能を比較し、自社の環境に合った会計ソフトを選定するとよいでしょう。
この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。
コメント